おすわどん

 最愛の妻に先立たれた大店の亭主が、当初は渋っていたものの、周囲の強い勧めにより後添えを貰うことになる。その後添えがおすわさんという。
 おすわさんも前妻に負けず劣らず素晴らしい奥さんで、主人や周りの者たちに対して甲斐甲斐しく世話を焼き、店の者からも慕われるようになる。
 そんなある日のこと、夜になって「バタバタバタ・・・」という音が店の周りでしたかと思うと、それに続いて「おすわどーん」という声が毎日聞こえるようになる。
 さては、焼き餅を焼いた前妻が化けて出たものかと、店の者達は騒然となる。おすわさんも気を病み、病の床に伏してしまう。果たして、化け物の正体や如何に・・・

 筆者は、この噺については、桂歌丸が演じたものしか聴いたことがないが、調べたところによると、埋もれていた噺を歌丸師匠が発掘したということらしい。
 小品ではあるが、下げがよい。典型的な地口落ちなのだが、思わず「してやられたり」と感じる小粋な落ちである。
 したがって、あえて落ちの内容は紹介しない。その代わりといっては何だが、この噺専用のものかは定かではないが、歌丸師匠のまくらを紹介する。恐妻家で 売っている歌丸師匠らしいまくらだが、一度これを応用した話を結婚式のスピーチで行って、大受けした経験があるので、よろしければ参考にしていただきた い。

 「・・・自慢じゃありませんが、我々落語界というのは、他の芸能人に比べて離婚率が低いです。また、もう一つ言えることは、噺家連中の家では99%かみ さんの方が威張っています。強いですからねぇ。特にうちのなんかすごい。でも、始終脅かされているばかりが能じゃありません。こんな私でも、たまにはかみ さんを脅かすことがあります。たったひと言でもって、女房をぐっと黙らせ、大人しくさせる秘訣を知っております。ご伝授いたします。『すまねえ、俺が悪 かった』」