幻の地獄八景

 「幻の地獄八景」、それは、昭和38年に始まる深志落研の歴史の中でも、特別な意味合いを持った事件である。
 しかし、事件から20有余年が過ぎ、人々の記憶からは薄れ始め、この出来事を知っている人間もごくわずかになってしまった。
 実は、筆者もよく知らないのである。したがって、この件に関しては未完で終わる。まさに「幻」・・・いえいえ、この事件の鍵を握る唯一の人物であるY.Oさん、連絡をお待ちしております。

 さてと・・・
 未完で終わってしまったのでは、せっかくこのページを開いてくださった皆さんに申し訳ない。そこで「未完」という言葉から、思い出した事柄があるので、ここで紹介する。
 私は、学生時代、年賀状を書くときには、オリジナルの小咄を一つ添えることにしていた。それも、相手によって一つ一つネタを替えるのである。今思えば何 とも骨の折れることをしていたものだが、とりあえず、社会人になってからも続けなくてよかったと胸を撫で下ろしている。おそらく、1年の大半を年賀状作りに費やすという、馬鹿な人生を送ることになったであろう。
 そんな中で、当時公開されていた「未完の対局」という映画を題材にした小咄があるので、ここで皆さんにも紹介する。


【未完の対局】

 山形県の銀山温泉。旅行雑誌などでは「大正浪漫」という形容詞で紹介されるこの温泉街において、中でも最も格式のある旅館で、今まさに名人・大山と挑戦者・米長との対局がクライマックスを迎えていた。

 「王手!!」
 大山の声が、対局室に響いた。米長の顔に、苦悩の色が浮かんだ。手は出尽くしていた。しかし、他にまだ何か、「手」が残されているはず・・・必ず。
 考える米長。
 1時間を超える長考の末、米長の脳裏にある手が閃いた。
 「手紙」
 まだその「て」があったか・・・心の動揺を必死で鎮めようとした大山であったが、わずかな狼狽により、彼の完璧とも言える頭脳に狂いが生じた。
 「みかん」(・・・し、しまったぁ!!)

(みかんの対局、了)


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