飯田高校に消えたルパン

 私が3年生の時の1年生で、半年だけ落研に在籍した男が起こした事件について紹介する。
 残念ながら名前は忘れてしまったので、彼のことは少年Aとしておく。さらに申し訳ないことには、顔も忘れてしまった。本当に済まない。ただひとつ、彼の 大喜利のネタを覚えている。先解きの問題で、隠しキーワードの「ナポレオン」に対し職業を当てるものだった。
 彼は「気象予報士」と答えていた。
 他の解答者が答えを披露する中で彼は最後まで答えが出てこず、司会者に問い詰められて苦し紛れに「雨フランス!」と答えたのだが、それなりに受けていた。
 そんな彼が落研を去ったのは飯田高校に転校したためだった。剽軽でどことなく哀愁があり、いい与太郎具合を醸し出しているキャラだっただけに大変残念であったが、転校とあってはどうしようもなかった。
 
 時間を少し先に飛ぶ。
 彼が飯田高校に転校した後、飯田高校の落研から封書が来た。
 手紙を要約すると、
 「当方でも大喜利をやってみたいと思っていますが、聞くところによりますと深志落研では長年にわたって大喜利をやっているとのことですね。是非、そのノ ウハウをご伝授いただけないでしょうか。余談ですが、当方には飯田高校のマドンナと呼ばれている美人マネージャーがおります」
というような内容だった。
 最後の一文により、一も二もなく飯田高校に出掛けていった。ご伝授でもご教授でもご指導でもご鞭撻でも出稽古でも致しますとも。手取り足取り致しましょう。(ただし、美人マネージャーに限る)
 私自身、飯田に行くのは初めての経験だったが、松本から飯田はとにかく遠かった。途中、電車の乗り継ぎで30分以上待たされたこともあり、4時間以上は かかったと思う。東京に行くよりも時間がかかっている。
 さて、なにぶん大昔のことにつき、飯田高校の印象は皆無に近いのだが、落語口演の高座がやけにしょぼかったことは記憶にある。一人座るのが精一杯の小さな高座だったのだ。
 出掛ける前に部員達で話し合って、大喜利のコツのようなものを箇条書きにしてまとめていったのだが、その前に高座を作るところから始めないと大喜利を行うのは物理的に無理であった。
 結局のところ、大喜利開催は諦めることになった。
 しかし、そのことは最早どうでもよい。美人マネージャーは確かに存在した。それだけでも4時間かけて来た甲斐があったというものだ。
 こちらも、選りすぐりの美人部員を数名引き連れて行ったのだが、高座では勝っても・・・

 時間を元に戻す。
 少年Aが転校していった直後のことである。週末、落研の部室に不審者が侵入するという事件が起きた。
 入り口の鍵はかかったままになっていたので、どうやら賊は部室長屋の壁をよじ登り、2階の窓から侵入したようであった。
 賊は、以下のメモ書きを机の上に残していった。
 「ルパン参上! (忘れ物を取りに来ました)」