上手と下手(かみてとしもて)

 客席から見て右側が「上手」、左側が「下手」となる。
 演者は常に上手と下手を意識しなければならず、登場人物が二人いる場合は、目上の者が上手、目下の者が下手となるように演じ分ける。
 「左遷」という言葉があるように、日本では古来より右側の方が偉いことになっている。しかし、ここでややこしいのは、あくまでもそれは客席側から見て、 ということになる。したがって、演者側からすると左側が目上の者になるわけであるが、さらに混乱するのは、左側が目上ということは、目上の人間が話をする 場合には、右側を向くことになる。つまり、ご隠居さんと与太郎が会話をする場合、ご隠居さんが右を見て、与太郎が左を向くことになる。
 では、熊さんと八つぁんはどちらが偉いか?落語の世界では、熊さんの方が先輩格のようである。
 蛇足であるが、「笑点」では客席から見て司会者が左側におり、解答者が右側に配置されている。したがって、実は解答者の方が偉いのである。

【余談ですが】
 私は、方向音痴の所為か、結局のところ3年間、この上手と下手が覚えられませんでした。高座に上がる際には、「上手ってどっちだっけ?」と必ず周囲の人に確認していました。
 新入社員時代に「ビジネスマナー研修」なるものに参加したとき、講師は元スチュワーデスの方だったのですが、ここでも、お客様への対応をする際のマナー として、上手と下手を意識するよう指導がありました。
 「どちらが上手でしょう?」という講師の質問が、なぜか私に当たり、私はそれなりに自信を持って答えたつもりだったのですが、見事に左右反対に答えてし まいました。その時、「あっそうでしたっけ?落研時代にそう教わったような気がするのですが・・・」と口を滑らせたものですからたまりません。それからと いうもの、その研修においては、ことある毎に私が指名されたのです。
 研修が終わった後、一緒に参加していた同期の奴から、「右も左も分からねぇ噺家のくせに」とからかわれたのですが、妙にこのフレーズが気に入っておりました。まあ、どうでもよいことですが。