三枚起請

 「三千世界の烏を殺し、ぬしと朝寝がしてみたい」という俗曲で始まるこの噺は、郭噺の定番中の定番である。冒頭の俗曲が下げの前振りとなっているわけで あるが、私は司馬遼太郎の作品である「世に棲む日々(一)~(四)」(文春文庫)で、これが高杉晋作の作品であることを知った。
 「竜馬がゆく」の坂本竜馬、「坂の上の雲」の秋山真之、「花神」の大村益次郎など、司馬作品には魅力的な歴史上の人物が数多登場するが、その中でも 「粋」という点では高杉晋作が群を抜いていると思う。筆者は特に、(四)の26頁に至るくだりが好きで、鳥肌が立つのを感じるほどである。
 さて、三枚起請である。これは、古今亭志ん朝の噺にとどめを刺す。とは言っても、他の噺家が演じているのを聴いたことはないが、聴く必要もないと思う。 しかし、志ん朝が亡き今となっては、彼のCDを後生大事に取っておくしか手はない。