「時そば」と16の昼

※S56年卒のS.M.氏からの投稿を元に作成。


 以前に、落語の練習は文化祭前に1週間程度行うのみだと書いた。確かに、部員達の前で座布団に座って、本番さながらに落語を行うのは、文化祭前の合宿に おける1週間だけであったが、文化祭での出し物が決まった時点で、各々の役作りが始まる。
 そして、それぞれが役作りに没頭するあまり、様々な出来事が起こる。

 例えば筆者の場合、初めて「おかみさん」が登場する落語を演ることになった時、なかなか女らしいおかみさんを演じることができずに、日常生活に於いては 「如何にして、自然に女らしさを出せるか」というテーマに取り組んでいた。
 その甲斐あってある日のこと、親から深刻な顔で、「お前・・・最近なんだかおかまっぽくなった気がする。何かあったのかい?」 と言われた時には、複雑な気分だった。また、この後遺症は落語口演が終わってからも残り、会社に入って(えっ!!そんなに長く・・・)最初の社員旅行の余 興で女装をすることになり、担当内のどの女性社員よりも色っぽい女性に成り切ることが出来た。先輩男性社員達の人気爆発で、女性社員からは妬まれること に・・・?

 また、同期のR.Nの場合、花火をテーマにした新作落語を演ることになった時、この噺の中では、打上花火やら、落下傘花火やら、ネズミ花火やらを形態模 写で表現するのであるが・・・ 日常生活に於いて、ところ構わず花火になっていたため、近所の子供達の人気者になったと風の便りで聞いた。彼は、その経験 を生かし?今では学習塾の経営者となり、やはり近所の子供達の人気者になっているようだ。

 「時そば」を演ることになったA.Hの場合、彼はどうしても実地訓練がしたくて、屋台のそば屋ならぬ松本駅の立ち食いそば屋で、実演をすることにした。
 「そば屋さん、わりばし使ってるね」
 「いいダシでてるね。これは鰹節だね」
 あげくは、天ぷらそばの天ぷらを見つめながら、「そば屋さん、これは本物のちくわだね。最近、ちくわ麩なんてまがい物を使っているそば屋もあるんだぜ。やっぱり卓袱はこうでなくっちゃねぇ」とか勝手なことを言いながら食べていたので、そば屋のおばさん、きょとんとした顔をしていた。さすがに、付き合った我々もその場を逃げ出したい衝動に駆られた。

 ちなみにこのネタを送ってくれたS.Mは、社会人になってからも落語を続け、老人ホームを慰問で廻るという奇特な心を持った青年なのだが(よっ、部長!  さすがだねぇ)、社会人になって「長屋の花見」を演ることになり、上野公園の雰囲気がつかめずにわざわざ東京上野まで行ったことがあるそうだ。
 そこで彼は、お茶を飲んで酔ったフリをし、ちょうど通りかかった警官に、「もしもし、ちょっとご足労願えますか・・・」と近所の交番で職質を受けたそうである(嘘ですからね~)。


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