マーガレットを胸に

※S56年卒のS.M.氏からの投稿を元に作成。


 今回は、このコーナー初登場のY.Mさん(筆者が1年生の時の部長)の話題である。

 が、その前に・・・
 落研の部室には、当時、筆者の1年先輩であるY.Oさんの影響により少女漫画があふれていた。少女コミック、少女フレンド、花とゆめ、別冊マーガレット (別マ)といった雑誌である。(別冊マーガレットは聞くのに、月刊マーガレットは聞かないのはなぜだろう?)
 Y.Oさんは、中でも萩尾望都竹宮恵子といった漫画家を神のように崇め奉っており、何かにつけ彼女たちの作品を熱く語っていた。筆者は江口寿史の「すすめ!パイレーツ」で「マッチ一本火事の元、ポーの一族萩尾望都」というフレーズを見たことにより、萩尾望都の名前だけは知っていたが、少女漫画のキラキラ目と現実感の無さにはついていけず、「ケッ!!」という目でそれらの漫画群を見下していた。しかし、部室に置いてあったそれらの漫画についつい手を出し、「いらかの波」(別マ)と「ガラスの仮面」(花とゆめ)だけは、しっかり読んでいた。しかも、単行本まで買ってしまった。(あんたは一体・・・)

 さて、主人公のY.Mさんに戻る。Y.Mさんは、たとえて言うなら、「ガラスの仮面」の速水社長のようなクールさとニヒルさを備え、落研女子部員の憧れの的であった。(褒め過ぎかな?)また、実家が呉服屋であったため、着物の着こなしは抜群であり、「落研の玉三郎」とも呼ばれていた。実を言うと、このWebページの表紙を飾る落研のハッピも、Y.Mさんのご実家により格安で作っていただいたものなのだ。さらに言うと、呉服屋の若旦那だけあり、細かいことにはこだわらない飄々とした面も持っていた。
 例えば、読みかけの少女漫画を「Y.Oちょっとこれ借りるよ」と言って、そのまま授業に出たりするのである。ある時など、松本駅前のスクランブル交差点 で、ふと向かい側を見たら、Y.Mさんが佇んでいる姿が見えたのだが、その胸にはしっかりと「別冊マーガレット」がむき出しのまま抱きしめられていたこと もあった。
 想像していただきたい。速水社長が少女漫画を胸に抱いて、交差点に立っているのである。果たして北島マヤは、彼の面影に「紫のバラの人」を感じることが出来たであろうか。

 ここから、本題に入る。
 その年の落研キャンプの目的地は聖高原だっ た。松本駅から篠ノ井線に乗り、大量の荷物を抱えてキャンプ地へと向かった。Y.Mさんの席の真向かいには2人の女子中学生が座っていた。彼女たちは Y.Mさんの方を見て小声で「ねぇ、ねぇ、ちょっとぉ、あの人かっこいいね」「えっ、どれどれ、うん、ほんとだね」なんてことを言い合って、Y.Mさんが 脚を組みなおしたり、腕を組んだりと動くたびにキャアキャア言っていた。
 そのうちY.Mさんも、「かっこいい」と言われていることに気がついて、わざと髪をかき上げたり、めがねをちょっと上に動かしたりして、彼女たちの要 望?に応えていい気分に浸っていた。(あくまでも推測です)
 そのときである。電車が急ブレーキをかけた瞬間、無情にもY.Mさんの足元に置いてあったキャスター付きのクーラーボックスが勢いよくゴロゴロと転がっていき、彼は「おおーっ!!」と叫びながらクーラーボックスを追いかけていったのである。
 これを見た女子中学生たちは、「かっこわるーい!」と言って別の車両に移っていってしまった。所詮、女子中学生など薄情なものである。まるでコテコテのコントのような光景を目の当たりにした我々。
 「玉三郎」「欽ちゃん」になる。略して、たまき・・・(そんなもの略してどうする??)


次の事件:「かしわそば」と15の夜